

ハンカチやタオルなどの小物の最高級ブランドとして人気の「フェイラー」。その商品群は、美しい色彩と「シュニール織」と呼ばれる独特の織り方が生み出すプクプクとした質感で知られる。日本では、フェイラージャパンが国内で企画した各種商品をドイツで製造し、輸入販売を手がけている。2019年11月に業績管理プロセスの効率化を目的にBoardを導入した同社は、どんな成果を得たのか、フェイラージャパン株式会社 経営企画部 浜本幸宏氏、経営企画部 佐藤俊充氏(導入当時)のキーパーソン2人に訊いた。
フェイラージャパン(以降、フェイラー)は、主要百貨店を中心に全国約120の販売拠点でビジネスを展開している。浜本氏と佐藤氏が所属する経営企画部の主な業務は、予算編成と全部門の業績管理であり、予算編成は年に一度、業績管理は月次で行っているという。一般的な日本企業の予算編成業務では、本社が各部門からのデータ収集を取りまとめるが、いまだにExcelとメールを使うことが多い。実績管理もExcelで行うことがほとんどだ。このやり方の問題は、関連部門が多くなればなるほど実績データの収集に時間がかかることにある。これでは分析から得たインサイトを基に打ち手を講じるタイミングを失ってしまう。全国に販売拠点を構えるフェイラーの場合も、同様の課題を抱えていた。
フェイラージャパン株式会社 経営企画部 佐藤俊充氏(導入当時)
Board導入以前の同社の月次業績管理では、経営企画部が財務会計システムから前月までの実績データをExcelのフォーマットに展開し、拠点別のP/Lを作成していたという。過去4・5年分のデータ全てを一つのExcelファイルで管理していたため、毎月のアップデートに応じてデータ量が増加し、「いつ壊れるか分からない不安を抱えていました」と佐藤氏は当時を振り返る。また、せっかく蓄積したデータを活用しようにも、ファイルが壊れるリスクがあったため、各拠点との共有もままならない悩みを抱えていたという。この実績データベースの作成は、どんなに順調でも2営業日はかかる担当者の職人技で支えられていた。
フェイラーがこの悩みを解決するために導入したのはBoardである。BIツールを含めて複数の候補の中からBoardを選ぶにあたって重視したことは、馴染みのある「Excelライク」に予算計画の策定ができるかどうかだった。
ダッシュボードと聞くと、通常はBIツールを想起するのではないだろうか。実は一般的なBIツールは予算編成のように、各部門との調整を伴う業務には不向きなことはあまり知られていない。BIツールは、本社が集約した過去のデータをダッシュボード上に美しく表示する分には優れているが、部門間の調整を経て、最終的な数値を決定するというプロセスの支援は苦手としている。どこかの項目のデータを変更する処理や、変更を他の項目のデータにも反映させる処理に対応していない。Excelで我慢している企業が多いのはそのためだ。一方、Boardの特徴はダッシュボードのようなBIツールの機能を持つことに加えて、データ入力やシミュレーションなど、経営管理に必要な機能を一体的に提供していることにある。フェイラーはこの点を評価し、Boardを導入した。
Board画面
もう1つ、フェイラーがBoardを導入する際に重視したのが、いろいろな帳票をIT部門の力を借りることなく、エンドユーザだけで作成できる点である。伝統的なBIツールの運用では、エンドユーザ部門の要求に即してIT部門がダッシュボードやレポートを設計し、可視化したデータを提供する。これに対して、最近ではエンドユーザ自身が見たいデータにアクセスできるセルフサービス型のツールの選択肢が増えている。「私たちが必要になる度に、帳票を開発しないといけないのでは困ります。また、外部に頼めば、『ここを直してほしい』『あそこも直してほしい』と手戻りが発生しやすいという問題もあります」と浜本氏は語り、本当に自分たちだけで作りたい帳票ができるかを重点的に評価したと語った。Boardは計画策定をサポートするソリューションを提供すると同時に、セルフサービスでの帳票設計も得意としている。この2つの特徴がフェイラーのBoard導入では評価された格好だ。
実際の導入にあたっては、フェイラーの場合、段階的アプローチを選択した。第1フェーズでは月次業績管理の効率化、第2フェーズでの予算計画策定、さらにその先の売上や経費のシミュレーションを視野に入れ、導入を進めていった。具体的には、まずExcelファイルの中にある月次の拠点別P/Lデータを移行し、Boardで業績管理ができるようにする。
業績予測/予算作成画面
フェーズ1が終わった時点で得られた成果は主に2つある。1つは実績アップデートのスピードアップだ。佐藤氏は「これまではどんなに順調でも2営業日はかかっていた作業が、今では30分で終わります」と語り、スピード感が大きく変わったことを指摘した。また、浜本氏が重視していた帳票設計もスムースに進めることができたという。もう1つの成果はデータの民主化の進展である。これまではファイルが壊れるリスクがあったため、データを関係部門と共有することができず、業績データを知っているのは経営企画部だけであった。それがBoardのユーザーIDを持っている人であれば、誰もが確認できるように変わった。この結果を「全員が同じデータを見て、施策を決めるための議論ベースが整いました」と佐藤氏は評価している。
「現時点では、月末締めの処理後に関係者が前月のデータにアクセスできるようにし、わからないことがあったら経営企画部に聞いてもらうようにしたばかりです。会議報告で活用するのは、もう少し先になるでしょう」と浜本氏は語る。この言葉の背景には、Boardのデータを使えば、エリア別、商品別、担当者別などの様々な切り口での分析を実現したいという思いがある。より多角的な分析ができるようになれば、そこから得られるインサイトも増える。今後の会議でのコミュニケーションの質の向上にもつながるメリットと言える。
浜本氏と佐藤氏の両方が高く期待を寄せるのが、シミュレーション時に役立つ「逆アルゴリズム機能」である。Boardには、このように幾つかの業績管理や予算に適合する非常に便利な仕組みがある。例えば、今年度の益が目標に対して3,000万円足りないことがわかったとしよう。その利益目標を達成するために、どのぐらいの売上が必要になるのかを示してくれるのが、この機能の優れたところだ。佐藤氏は「今はトップラインの売上しか見ていないところがありますが、年度の途中である店舗のスタッフを増やすと業績にどう影響するかなど、様々なことが見えてくるでしょう。自由に切り口を選んで分析できるようになれば、営業のデータへの感度が高くなってくると思います」と展望を語る。
その実現に向けてフェイラーが取り組もうと考えているのが、P/Lの項目を切り口とする財務的分析から非財務的分析へとシフトしていくことである。フェーズ2では非財務的な分析、フェーズ3ではシミュレーションと、段階的に経営管理の高度化を進めていく計画だ。同時に、ダッシュボードの構築にも意欲を示す。フェーズ1で実現した業績管理は月次ベースであるが、ダッシュボードで毎日の売上報告ができるようになれば、さらに意思決定のスピードがアップする可能性もある。「ダッシュボードが使えるようになれば、私たちの取り組みも全社的なものに変わると思います」と浜本氏は締めくくった。フェイラーの経営管理高度化は今、始まったばかりだ。