
タカラレーベンにおける不動産投資の収益管理高度化
会計システムとの連携だけでは不十分、必須だったExcelの巻き取り

不動産総合ディベロッパーのタカラレーベンは、首都圏を中心に「レーベン」「ネベル」シリーズの分譲マンションの企画から開発、販売までを手掛けていることで知られる。不動産販売事業の中核はマンション事業であるが、近年は流動化事業が好調だという。同事業の収益管理を案件単位で精緻に行うため、Boardを導入した。
- Industry: Construction
- 部門: Finance
- 従業員数:1,061名
- 売上規模: 1,483億97百万円

製品選定で重視した2つの要素
タカラレーベンのビジネスの中核は不動産販売事業である。2020年3月からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響はあるが、主力の新築分譲マンションの購入意欲は旺盛に推移しており、年間2,000戸の構築体制を築いている。さらに、ここ数年は新規事業として立ち上げた流動化事業が好調だ。不動産流動化とは、既存の建物をタカラレーベンが購入し、リニューアル工事で設備を新しくする。あるいは取り壊して新しいビルに建て替え、投資ファンドなどの買い手に売却し、利益を得るビジネスである。2017年4月には専門部署として投資開発本部も立ち上げた。
現在保有中の投資案件は約200件に上るが、案件ごとの収益性はそれぞれに異なるという難しさがある。例えば、取り壊しが必要な物件の場合、売却までに3年以上かかることも珍しくない。リニューアル工事だけで済み、数カ月で収益化する案件もあれば、投資金額や期待リターンは大きいが、収益化までに数年かかる案件もある。加えて、賃貸マンションのこともあれば、商業施設や倉庫もあるといった具合に種類も様々だ。首尾良く売却できたら、またすぐに別の案件に投資する。仕入れと売却の回転率を高めることが重要なビジネスでもある。平均すると、投資期間は2年から3年のものが多いが、常に多くの案件を並行して運用していることから、案件の収益化の見通しを予想する業務は、年を追うごとに複雑になっていた。
株式会社タカラレーベン 経営企画本部 経営企画統括部 IT推進部 次長 武部敬次氏
Boardを導入したのは、投資収益計画を案件単位で管理する必要性を痛感したためです
と武部氏は語る。
数社の候補の中からBoardを導入する決め手となったのは、計画業務専用の製品であること、そして不動産業界における実績があることの2点だ。利用中の会計システムと相性の良いBIツールを使う選択肢もあった。BIツールはデータソースから見たいデータを集めて、わかりやすく可視化することは得意としている。しかし、通常はどこかの数値を変えたら、関連する数値全てに変更を反映させる処理には対応していない。一部には、計画担当者が必要とするシミュレーション機能を提供しているものもあり、武部氏も検討したという。
とは言え、投資開発本部の収益シミュレーションに必要なデータは、会計システムにあるものだけではない。重要なのはむしろExcelで管理しているデータだ。というのも、不動産ビジネスの特性上、案件を売却するまでは工事費用が増えるばかりで、会計システムで個別の案件を見るとこれまでの支出しか記録されていない。仮に案件単位でP /Lを作った場合、進行中の案件はすべて赤字になるわけだ。全体で見ると、売却済みの案件の利益と相殺するので黒字になる。帳簿上は問題がないものの、これでは計画通りに工事が進行しているか、売却益がどのぐらいになるかなどを検証できない。Board導入前の収益管理をExcelで行っていたのはこれが理由だ。元々、会計システムは起こったことを記録するためのもので、工事費のデータはあるが、将来の数値を入力することはできない。だとすると、会計システムとの相性にこだわる必要はない。外側にあるExcelを巻き取るには、計画に特化した製品が適切と判断し、武部氏はBoardの採用を決定した。
ソリューション:Boardで整った計画と未来予想ができる仕組み
2020年1月に導入キックオフを開始し、同年4月には会計システムのデータソースの連携が完了している。この時点で進行中の案件の費用に関する情報は可視化されたが、苦労したのはExcelで管理していたデータをBoardに移行することであった。今でこそ、常時200件前後の案件を運用するまでに成長したが、事業が立ち上がった当初は案件数も少なく、一つひとつの案件に対し、プロジェクトコードを発行してのモニタリングを行う必要がなかった。だが、ビジネスが成長して案件数が増えてくると、ざっくりとした管理では立ち行かなくなる。
また、すべての案件が一斉に同じタイミングで始まることはない。期間中、コンスタントに一定の収益を上げられるようにするには、最適化の調整も必要になる。タカラレーベンでは、数年前から案件の発生と同時にプロジェクトコードを発行し、会計システムでも工事費用と紐付けて管理するようにしている。ところが、過去データをBoardに移行した際、突き合わせるとエラーになるものが出てきた。原因はプロジェクトコードを発行しての運用に移行する端境期のデータが含まれていたためだが、これらの修正に時間を要したと武部氏は振り返る。
ExcelのデータがすべてBoardに入り、案件単位で収益性を分析できるようになったわけだが、武部氏はBoardに営業が個別に持っていたプロスペクトのデータも入れるようにもしている。プロジェクトコードの発行は仕入れ後になるため、これから購入したいと考えている物件に関しては、既存のテナント契約の期限切れなどの情報と共に別途管理する必要がある。これらは言わば「案件の卵」に相当するもので、仕入れが実現するとは限らない。あくまでも予定として管理しているデータであるが、これらもBoardに入れたことで、投資計画から売却までのライフサイクル全体を管理できるようになった。流動化事業の計画に必要なデータのあらゆるデータをBoardに移行する作業が終わったのは、2021年4月のことであった。
ようやく未来予測ができるようになりました、と武部氏は顔をほころばせた。
運用開始から約1カ月が経過した時点で実感している効果として、武部氏は「収益予想の数値を正確にかつ速く把握できるようになったこと」を挙げる。今、どの案件にそれぞれいくらの投資をしていて、いつまでにいくらの売却益が見込めそうか。それが全社的に俯瞰して見られるようになった。加えて、会社として有望なプロスペクトをどれだけ抱えているかもわかる。投資業務に不可欠なポジション調整の判断も迅速にできるようになった。不動産市況の変動リスクを考慮すると、手持ちの案件規模を極端に大きくすることはできない。買いたい物件がある場合は手持ちの物件を売却し、常に現在のポジションを一定規模に保つ必要がある。以前であれば、売却する物件を選ぶときは、営業に聞いて回る必要があったが、今はBoardを見ればどれを売ればいいかを判断できるようになったという。
ネクストステップ:次は主力のマンション事業へ、探る全社利用の可能性
今後は運用を続けながら、Boardで構築したこの仕組みを会社全体に広げていくことを視野に入れる。主力のマンション事業では、開発と販売の連携が課題だという。2つが分断していると、建てるまでは問題がなくても販売で苦戦することが出てくる。案件それぞれのライフサイクルを可視化することで、より会社としての収益最大化につながる意思決定ができるようになるはずだ。流動化事業とは異なる部分もあるが、今回の導入経験を通じて得た仕組み構築のノウハウは、マンション事業への適用にも活かせると武部氏は考えている。「総合ディベロッパーとしては、マンションを建てて売るのがビジネスの基本。他のビジネスにも展開できるようにしていきたいと思います」と抱負を語った。
上場会社として決算時に発表する業績予想の開示にも役立ちそうだ。5月は3月決算の企業が発表を行う時期でもある。経営層は投資家に発表した業績目標数値を達成できるかを常に意識している。達成が困難と判断したら、即時に見直しの発表を求められてもいる。全社に導入すれば、Boardを見て着地予想の迅速な修正も可能になるだろう。計画から未来予想まで、タカラレーベンはこの仕組みを運用しながら、収益の最大化を目指していく。
